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2018-09-17

君と夏が、鉄塔の上

※ネタバレを含みます

賽助先生(というか鉄塔さん)の書くブログやらメルマガの文章がすごく好きで、だから小説にも期待していたしこんなことはあまり言いたくないんだけども、正直肩透かしを食らったというか、なんか、こう、五段階で評価するなら2……的……な…………。

文章は読みやすい。それは間違いない。
難しい言葉も無いし、比喩表現を多用し過ぎて何言ってんのかよくわからない的な言い回しがでてくることも無いし、読んでいて小気味良いとかはないけれど、すっと入ってくる馴染みのある日本語だなって感じがする。それこそ小中学生でも無理なく読めるような。

キャラクターも魅力的で、とても親近感が沸くし感情移入しやすい。私は伊達だったし比奈山だった。そしてヤナセでもあったし、書き下ろしにでてくる三森、小山、佐久間でもある。
帆月ではなかったかもしれないけれど、帆月のように竹を割ったような性格の、分け隔てのない行動力のある女の子になりたかったという意味では、帆月もまた、私の中にいると思う。

教室の端っこからクラスを見ていた賽助先生だからこその生まれたキャラクターたちだと思うし、同じように教室の隅っこクラスタとしては、他人のような気がしないし、友だちだったかもしれないと思う。
だから、そんな彼ら彼女らの冒険譚は眩しいし、好ましいし、こんな青春があればよかったと思う。話の大まかな流れは十分にジュブナイルノベルだから。

夏休み、今まで関係のなかった人たちがある謎をきっかけに絆を深めていく、恋ともつかないような淡い気持ち、どこにでも居そうななんの取り柄もない僕。
分かる。めっちゃ分かる。だからこそ惜しい。プロの書いた小説にこんなことをいうのは烏滸がましいのだけれども、どうしてもひっかかるのは詰めの甘さだ。

いちシロウトにこんな偉そうなこと言われたくないだろうけども、まず、回収されていない伏線がある。しかもそれがデカい。せめて書き下ろし短編で触れられないかと思ったけれど、全くそんなことはなかった。意味深な登場人物、先生の中には絶対回答があったはずなのに。

あまりにあまりすぎて「編集が悪いのか?そういうとこ指摘していくのも編集の仕事なんじゃないの?知らんけど」ともやもやの矛先が担当編集の方へ向くまである。
読後爽やか気持ちになったって感想に首を傾げてしまう。いや、爽やかは爽やかなのだけれど(ハッピーエンドだし)あれがなんだったのかって事が気になってしまって、それどころじゃないというか……。

それに、帆月が鉄塔の上に座る男の子に執着する理由も話が飛躍してていまいち共感できない。忘れられていたのがショック、わかる。忘れられたくない、わかる。いろんな人の記憶に残るために部活を転々とし、あらゆることにチャレンジして功績を残そうとした、わかる。だから夏休み中に答えが欲しい、急にわからない……。

比奈山についてはもうちょっと掘り下げてほしかった。せっかくいいキャラクターなのに。母親とのこととか、彼がそれにどう向き合って、どう折り合いをつけていくのかとか……。だから、掘り下げは無かったけど書き下ろしは良かった。比奈山のこういうところが本編でもっと見たかったけど、そこは伊達視点だからしょうがない。
(ところで書き下ろしで「三人の秘密」とか言ってるけど、自転車飛ばす場にいたヤナセミツルにはなんらかの説明をしたんだろうか……?)

というわけで、文書量の割に不完全燃焼感が否めない一冊でした。全然面白くないとは言わないけど、人に勧めるかっつーと勧めない……かなー……。

あとがきはやっぱりものすごく好きな文章で、そこがもうほんと悔しいっつーかなんつーか……。
いっそエッセイ本とか出してくれないかしらね……。